第84回  1月 5日


風邪から復活 1年スタート
   元日の朝は、過去45年、御前崎の観測を見ても80%は晴れ。元日の朝日はたいてい毎年見てきたような気がする。ところが今年は1日も2日も曇り空。私の体調は、年内の無理がたたって大嵐。声は完全に出なくなり、夜な夜な咳(せき)き込み、咳のし過ぎで全身が消耗して骨転移している骨を含め痛くてたまらない。


 抗がん剤治療をしないでいる私は、主治医の中村先生に「以前のような症状になるまで絶対にがまんしないこと」を約束した。しかし、判断に苦しむ。これは風邪で悪いのか、がんが悪化して悪いのか。時は、世の中ハッピーにのんびりしていたいお正月。風邪の症状で病院に行ったとしても、私の場合、がんと関連づけてきっと大ごとになる。それは、主治医からも身内からも楽しいお正月を奪い取る。ここは、風邪なら風邪ですませたい。がまんするわけではないが、なんとか食べられるものを口に運び、免疫の上がるつぼにお灸(きゅう)をしたり、数年ぶりに「こんにゃく湿布」をしたり、家で出来るありとあらゆる方法を駆使し、あがくように過ごした。


 1月3日、目覚めると「きょうは、天気いいよ」という夫の声。夕べまで歩くのもやっとなほどフラフラだったのに、自分で雨戸を開けることができた。太陽が明るく高く昇っている。新年初の太陽。思わず手を合わせ「太陽の神様、ありがとうございます!」と言っていた。



 がんになってから、咳をしたり熱を出したり痛みを発したりしながら、生命維持のため工夫をする体のからくりのようなものに敏感になった。とても消耗したあくる日など、たった一晩の眠りを通して自分の体が自らを回復させる力のすごさをよく感じさせられる。「できれば風邪ですませたい」という強い思いが、2日間の曇り空をしんぼうさせ、3日目の快晴をもたらしてくれた。前日までの体調とはうって変わり、なんとか治っていきそうな気配。そのうえ、「風邪、風邪」と騒いでいた数日、私は自分を「風邪をひいた普通の人」気分になっていて、自分ががんであることなど忘れていた。風邪も捨てたものではない。



 『日はまた昇る』……こういう経験をする度に、この言葉が必ず頭にうかぶ。今年も私は『不可思議な命、そのありがたさ』をテーマに精いっぱい生きたいと思う。


 風邪のおかげで、おそばをゆでたのも、お餅をやいたのもすべて夫。今年の正月ほど夫に向かって「ありがとう」をたくさん言えた年はない。



 「このいちご、おいしいね」「ああ、30%引きだったから2箱買ってきたよ。30%引きっていうだけで運がいい気がするよな」。心底嬉しそうな彼に、「私の夫は、とっても大物っていう気がする……」と言った私。妻の心境としては複雑。しかし、「やっぱりダメになるかもしれない」と、この数日何度となく言い続けた私に、「うるさいなあ、どうせ治るんだからいいじゃない」と、何を意味して「治る」と言っているのかはよくわからないのだが、言い続けられた彼は、やはり、かなりの大物なのだろう。


 さて、こんな会話の後に始まった箱根駅伝。夫の母校が、初優勝! 笑顔で走りながらゴールを切ったラストランナーが印象的。今年はいいこといっぱいありそう。我が家にも笑顔が復活。皆様、今年もよろしくお願いします。


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