第76回 10月27日

1日に5回笑って5回感動を

 10月14日、神戸で行われた全国自治体病院学会のフォーラムにパネリストとして出席。日本医科大学助教授の高柳和江医師の基調講演の中に、患者として心魅ひかれる言葉があった。それは、「患者は病気にかかった普通の人」。家族と一緒に過ごし、好きな時に好みの音楽を聴き、テレビを見、電話で話し、食事を取る……。今は病気にかかっているけれど、病気であることを除けば普通の人。そう考えて、顧客である患者にとって価値の高い癒やしの環境を病院は提供するべきだ、ということだった。

 日頃患者として思っていることを、医師の側からの発言として聴くことができ、私は何よりも嬉うれしかった。患者の「患」の字は「串刺しの心」と書く。正直、嫌な言葉だなあと思う。そんな話を患者仲間でしていたら、「このごろは『患者様』って呼ばれるけれど、それは『バカ』を『バカ様』って呼ばれるようなものであんまり意味ない。普通に『お客様』でいいんじゃない」という声が上がった。私もそう思う。正確に言えば「健康な体、もしくは幸せな命の買い物に来たお客様」。そう考えて医療環境を見直してみると、いろいろと改善するべき点が出てくるのではないかと思う。


 全室個室、専用のトイレとシャワー、時間をくぎって使えるお風呂は必須アイテムだという話も出た。病気でつらい状況になった患者が、自宅よりもストレスのかかる環境で寝起きして、どうして病気がよくなるだろう。私は、自分の経験から、極めて厳しい症状で入院したのが全室個室の病院だった意義の大きさを実感している。

 また、一般の元気な人たちが行っても楽しいショッピングモールやレストラン、外の空気が思い切り吸える緑たくさんのガーデンがあるところに車椅子いすのまま、あるいは点滴の針を刺したままの患者たちが元気な人と入り交じって自由に出入りできるようになるのがよいなどと、心がはずむ病院像も浮かび上がった。


 入院中、私は一日中1人だったということがなかった。まるで交代制のように友人たちのうちの誰かが訪ねてくれた。それは、私の人徳があったから!と言いたいところだが、そうではなく、「楽しみがてら様子を見てこよう」と思わせる明るさが病院にあったからだと思う。お見舞いの人たちも軽やかな気持ちになれるところ、おいしい食事やおしゃれなショッピングをついでにしてこようと思えるところであることは、婉曲えんきょくに入院中の患者を支えることにもなるのだ。


 設備面だけでなく、医療の中身についても患者が元気になれるにはどうしたらよいかという論点で話が出た。元気になるコツは、一に「死なないと決めること」、二に「死ぬまで生きること」。そのためには、「1日に必ず5回笑って、5回感動することだ」と高柳医師。実際、それを実行し、劇的に悪性リンパ腫が治った男性の実例には心が躍った。


 病気の種類を問わず、回復に力を発揮するのが気持ちの問題。しかし、「1日に5回笑って5回感動すること」は、簡単そうで、いざ実行しようとなれば難しい。きっと健康な人にも難しいはず。まして、生きるか死ぬかの病名を持っていて、日々体調のアップダウンにドキドキしながら過ごしている人にとっては至難の業。でも、そうありたいなと、帰りの新幹線、窓に映る自分の顔を見て、感動したことを思い出しては、口をニッと何度も横に引き続けた私です。


インデックスへ

絵門トップへ