| 第56回 3月24日 |
あなただってオバサンになる![]()
| 3月17日。朗読コンサートのリハーサルに向かう地下鉄の中。若いカップルが私の姿を見て、コソコソと耳打ちし合い背を向けた。 花粉よけメガネ、紙製マスク、首にはプロテクターという花粉症がん患者である自分の姿が異様なのだろうと、この季節が早く終わってくれることを願っていたら、扉の窓ガラスに映った自分の姿にギョッとした。私は異様なだけでなくハーフコートのボタンをかけ違い、ウィッグが傾き、すべてが斜めになっている、だらしないオバサンだったのだ。朝起きてから鏡を見る時間が一度もなかった……という言い訳が許されるレベルではないその姿に目をそむけながら、私の頭の中には、次の駅で降りたあのカップルが交わすであろう会話が駆け巡った。 「ああいうオバサンにはなりたくない」「大丈夫。君ならすてきに年を取るよ」「あなたのためにいつまでもきれいでいたいわ」「愛してるよ」と、彼は彼女の肩を抱き寄せる……。 それはさておいて、最近の私の生活ぶりはあきれるばかり。夜の10時になって夕食がまだだったことに気づき、事務所近くのファストフード店に飛び込むことがしょっちゅう。この前、「毎度ありがとうございます」と言われたが、こういうお店で「毎度」をつけてお礼を言われると、恥ずかしい。若い人ならそれも絵になる。でも中年の女性が一人で夕食にパンをかじる姿はいただけない。 その上、私はがん患者。玄米菜食をきちんとしながらがんとの共生生活をしている方が聞いたら卒倒しそうな食生活だ。自分でひどい状態と知っているから、それを補うべくサプリメントのがぶ飲みをする。そして自分の体に、「どうか体中のがん細胞さん、怒らないで。そのうちきちんとした良い食事もする日を作るから。でも今は、胃の中でカプセルや液体を、いい加減な食事と混ぜ合わせて、良い栄養にしてよく吸収して下さいね」と頼み込む。 「オバサン」を初めて意識したのは5年ほど前の同窓会の帰り、やはり電車の中だった。1人半ほどのスペースに先に座った同級生は言った。「詰めれば座れるわよ」。うなずいた私は腰を下ろしたが、私のお尻の3分の1が、隣の若い女性の太ももの上に乗った。私の腰回りは友人と私の予想を超えたサイズだったのだ。その瞬間、何も言わず席を立ったその女性は、さっさと歩いて違う車両に行ってしまった。再び1人半になったスペースに所在なく座りながら、「この無視のされ方が、つらいよね」と言って、私と友人はうなだれた。かつて若い女性だった私たちには、「もう! オバサンって嫌」と彼女が後で仲間と交わす会話が想像できたのだ。 さて、私と同じ年の秘書、輝子さん。美しい脚にいつもミニスカート、髪はストレートのロングヘアーの彼女は、私のオバサン談義を聞いて、「あら私なんて、ほら後ろ姿は若い女性でしょ。だからこの前、若い男性に声をかけられたのよ。それで私が振り返ったら、彼、何て言ったと思いますぅ?」「?」「『スカートに虫、ついていますよ』ですって」と言った。 無視されるより虫! 彼の機転に拍手。そして、忙しさにパニックの私に「虫なんて、ついてなかったわ」とぼそっと言って笑顔と笑い声を戻してくれた輝子さんの有能な秘書ぶりにも拍手! がんであってもなくても、オバサンにはみんななる。そのうち、無視したあなただって……フフフ。 |