| 第52回 2月24日 |
傷つく側からバリアを外そう ![]()
| 2月19日。横浜市で講演。「病人だから」というバリアを作らないでもらえたことで私は生かされたと、いつものように話しながら、「がんと一緒にゆっくりと」の出版後、講演を始めた2年前の自分と比べ、私は今の自分がずいぶん穏やかに変わっていることを感じていた。 究極の状態を聖路加で助けられ、退院したばかりの頃は、平静にみせても心の奥は千々に乱れていた。余命、告知、宣告、生存率、末期……がん患者に使われるマイナスイメージの言葉や思い込みが状況や病気を悪くしている。絶対に使うべきではないと、テンション高く訴えてきた。今もこういう言葉に対する主張は変わらないが、あの頃の「窮鼠きゅうそ猫を噛かむ」という感じとはだいぶ違ってきた。時間の経過によって、恐れていたものの正体がつかめ、私はおびえからだいぶ解放されたのだろう。 がん患者が登場するドラマについては「病気が悪くなる話ばかりしないで」と発言してきた。そのため、乳がん患者が主人公で、生存率そのものをタイトルにしたドラマが始まる頃、「とても傷つく。絵門さんも何か言って」というメールが同じ病気の方たちから届いた。録画はしているがまだ見ていない。ゆとりは出てきたが、腹を立てずに見る自信がまだないからだ。 病気、事故……ドラマではいろいろアクシデントが起こる。登場人物ががん患者だとピリピリするのに、主人公が何度も交通事故に遭う「冬のソナタ」は何食わぬ顔で見ている私に、夫は「交通事故に遭った人はこういう場面の度に、嫌な思いをするのかなあ」と言った。ハッとした。自分がその立場にならないと気がつかないもの……。 絵本「うさぎのユック」は、後ろ足にハンディを持って生まれたユックが主人公。5匹のウサギの兄妹きょうだいたちが、森に来たライオンを追いやる知恵と勇気の物語。最後に、ユックの足は奇跡のように良くなるのだが、「なぜ足に障害があるウサギが主人公なのか。傷ついた」と足を悪くされた方から指摘をもらった。 私の場合、がん患者が登場しても回復する話ならいいと考えるが、この方は、足の障害は治らない場合が多いのに、治る話になっていて、余計つらい思いをしたという。果たして、誰も傷つかない物語など創つくれるのかと考え込んだ。そこに、友人で劇団「ふるさときゃらばん」のプロデューサー、祖父江真奈さんの娘さん、中学3年生のらららちゃんからメール。 らららちゃんは、脳性マヒが原因で、ずっと、つえが欠かせない。「ユック読みました。すてきでした。障害者(いや、『障害ウサギ』でしょうか……笑)のユックに親近感を持った私です。生物の授業で哺乳ほにゅう類の誕生については勉強したのですが、あーウサギって生まれる前は天使の羽があって、生まれる時、シュゥって音を立てて消えちゃうんだろうか? それとも、ポンってはじけて散っちゃうんだろうか? とたくさん考えました。こうやって想像の世界にぶっとんで行くのが趣味です。足は不自由でも頭の中は自由人ですから! ららら」 目を覚まされる思いだった。バリアは傷つく側が作るものかもしれない。ユックの作者として恥ずかしくないよう、私も、らららちゃんのようにすてきな自由人を目指したい。まずは録画したドラマを怒らず見て、窮鼠を卒業。バリア外しをしてみよう! |