第48回  1月27日

弱気にさせる医療はいらない

  1月22日朝、テレビから、北海道の旭山動物園の小菅正夫園長の「動物にとって弱みを見せるということは、すなわち死を意味するんです」という言葉が飛び込んできた。たとえばシマウマ。本当はライオンよりずっと速く走れる。しかし、弱みを見せた瞬間、自分より遅いはずのライオンに追いつかれ一瞬のうちに命を奪われるという。

  この日の夜は、調布で浪漫朗読コンサート。温かいお客様、頑張ってくれたスタッフ、最高の演奏をしてくれたアンサンブル・アレーズの2人、そして会場に来てくれた「ふぅちゃん」のモデルである92歳の祖母。祖母は、私が創作した部分の初恋ものがたりについて、「あら、全部本当の話よ」と言ってのけ、会場をおおらかな笑い声で包んでくれた。17時半から21時半までしか使えないホールで2時間半の公演という難しい条件の中で、奇跡の大成功は、そんな皆のおかげだが、朝聞いた「弱みは死」という言葉を通し、弱気な思いもそぶりも言葉も、かけらもあってはならないと肝に銘じたことも大きかったと思う。

  実はこの朝、起きるなりすごい頭痛がしていた。前回の診察で処方された経口の抗がん剤は下痢の副作用が強く、出された薬を飲まないやましさにつきまとわれながらも「22日までは」と飲まないでいた。そのためがんが一気に進行したのかと背筋が寒くなる。右乳がんのしこりが手術できず残っている私は、右半身全体が重くなったり痛んだりということがよくあるが、準備の大詰めの数日の無理がたたり、強烈な頭痛となったようだ。押し寄せる不安に沈みそうなそのタイミングで、テレビから聞こえてきた言葉。何かが私に聞かせてくれたようにも思う。

  あくる23日。さすがに消耗し、日中は正体もなく過ごしたが、夕方にはフルートと最近始めたピアノのレッスンに出かけ、夜パソコンを開いた。舞台を見ての感想メールに励まされていたが、一つ気になるメール。抗がん剤と放射線の治療ですっかりがんはなくなったと診断され、元気はつらつ希望に満ちて1カ月前に退院した知人が、1週間前「放射線治療でできたかさぶたの裏にがん細胞が残っている可能性が高いので全摘手術をする。そうしなければ半年後には動けなくなり、寿命は1年だろう」と言われ、以降ひどく落ち込み、顔色も悪くなり、目が宙を泳いだ状態だ、という内容だった。たった1週間のこと。症状を激変させたのは、「命の期限」を告げた医師の言葉であることは明らか。

  がんの進行の可能性とそれに即した治療法の提示は本人に対し、きちんとされていい。しかし、それに付随して命の期限を予測し、人を弱気にさせる意味がどこにあるのか……。未知の新薬の開発の可能性まで視野に入れれば、科学者であるほど命の期限への言及はできないはずだと私は思う。

  動物の世界は、弱気になり弱みを見せることは即、死を意味する。人間も動物の一種にほかならない。弱気にさせる方に導く医療はいらない。

  番組最後の「動物が一番元気なのはやりたいことをやっている時」という小菅園長の言葉と、夢中で歩くペンギンの姿が印象的だった。準備に半年もかけた一大イベントを終え、私もまた新たな「やりたいこと」に向かい夢中で歩こうと思う 。


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