| 第35回 9月 9日 |
「勝ち」強く信じて戦いに挑む
| 8月23日深夜。猛暑にバテた体調を整えることがオリンピックよりも先と、気になる女子マラソンの中継を見るのをあきらめて寝たのだが、レースが始まるころ、アラームなしで目が覚めた。高橋尚子選手が出場していないことが寂しいが、3人の選手にはとにかく頑張ってほしい。気がついたら3時間あまり、ベッドの上に正座して野口みずき選手の姿を追っていた。 すごい。小柄な体で淡々と逃げ切った。日本人選手が2大会連続の金メダル。8年にわたって、日本は、世界で最も速く走る、心も体も強くステキな女性がいる国となるわけだ。そう考えると誇らしく、なんだかとってもいい気持ち。 野口選手は、「勝ちます!」「勝てます!」と、いつもはっきりと言葉に出してきたという。かつては「精いっぱいやらせていただきます」というニュアンスの、謙虚に思われる表現が多かった。良い結果なら一層ほめられるし、ダメでも引っ込みがつく。日本人にありがちだったこの思考回路。しかし、今回のアテネの選手からは感じなかった。勝てて「うれしい」、負ければ「悔しい」。ストレートに表現する。結果が悪かった時の予防線など張らない。さわやかな覚悟をすべての選手に感じた。だから最多のメダル数を獲得できたのだと思う。 「勝つ」と宣言する。「負け」の可能性など考えない。だから「勝つ」力が強くなる。負ける可能性が高い厳しい戦いに向かう時ほど、この姿勢が大切だ。 周りも「勝つ」と言い切る選手の「勝ち」を心底信じて応援する。それがさらに「勝つ」確率を高め、不可能を可能にさえする。もし戦う前に「応援したからって勝てない」「負けた場合はあなたがダメだったから」と言う応援団がいたら、ひんしゅくものだろう。 しかし…。 再発転移となった仲間が、がん専門の大病院に転院を決めようという初診の時、医師から「ここの病院に来たからといって、がんは治りません。あなたはいずれがんで死にます。手立てがなくなったらホスピスを紹介することになるけど、いいですね」と言われたという。患者の回復を信じ、工夫しようとするのではなく、ダメだった時の予防線を張り、保身に走る医師の言葉。あぜんとした。 「絵門さんの主治医の先生みたいな方に出会えればいいけど私は乳がんじゃないし。他を探すのも疲れちゃったから、この先生に診てもらうわ。どの病院に行っても『先生なんてこんなもんか』ってあきらめちゃった」と彼女。「でも……」と言いかけた私に「大丈夫。私、元気だもの。ちゃんと治ります!」と明るい声。そう。へこまされそうになっても、へこまなければいい。高橋選手から野口選手につながったように、くじけない先輩患者が次の患者の可能性を引き出すのだ。 それにしても、全身転移して以降、「生きる! 治す!」と言う私にどれほど哀れむような表情が返ってきたことか。不可能を可能にしようとする選手の力を奪うギャラリーはいらない。負ける1秒前まで勝ちを信じ勝とうとするように、死の1秒前まで生を信じ生きようとする。それが自然ですがすがしい。周りは、その応援団であってほしい。 乳がんを知ってから10月で4年。私も、次のオリンピックを目指し、2ラウンド目に元気に突入します。 |