第30回 8月 5日

ボール当たるのもツキのうち?

  7月18日、「散歩がてらに」と夫に誘われ、自宅近くの球場に高校野球の千葉大会を見にいくことにした。アナウンサーになって最初のナレーションの仕事が甲子園出場校のふるさと紹介だった。なつかしい。

  さらに、川べりを球場に向かって歩きながら、NHKの研修時代に神宮球場で中継の練習をしたことも思い出した。私を含めて15人の新人アナは、デンスケというオープンリールのデッキを肩にかけ、それぞれ社会人野球の中継を録音し、後でそれを皆で聴いて先輩アナの指導を受けた。

  「ピッチャー……打ちましたっ。ボールは……青空の中に消えていきました!」という私の中継に皆は爆笑。たどたどしく高い声でしゃべる私には、「ピッチャー」の後の「投げました」と「バッター」が間に合わず、目で追っていたボールも見失い、わけがわからなくなったのだ。当時は女子アナがスポーツ中継をすることは考えられなかったので、先輩たちにも面白がってもらってご愛嬌あいきょうで終わったと記憶している。

  球場に到着。初めはネット裏だったが、あまりの暑さに風が通りそうな三塁側の一番上の席に移動した。ジュースを配りながら応援する球児のお母さんたちを見て、「私の同級生たちは、だいたいみんな高校生くらいの子どものお母さんなんだなあ」などと思い、試合を見るでもなしボーっとしていた。すると……。

  私めがけてまっすぐボールが飛んできた。気がついた時はすぐそこに迫っていた。「うそ!」。それからは0・1秒が1秒に感じられるようなコマ送り。首にプロテクターをしている私にできたのは、前かがみにふせることだけ。ファウルボールは私の頭の上をかすめて後ろの鉄さくに当たった。それがはねかえって頭に「ゴン」。鈍い痛みが走った。

  まず考えた。「私の頭蓋骨ずがいこつ、がんが転移している。割れちゃうかも」。次に、「これでがん、治っちゃうかも」。係の人から氷を入れた袋を渡され、夫は球場に医師が来ているので診てもらうようにと説明を受けている。とんでもない。首のプロテクター、頭蓋骨転移などの説明をすることになれば救急車騒動になりかねない。それはあまりにもかっこ悪い。

  私は「大丈夫」と言いながら必死で頭を冷やした。幸い痛みは徐々に去っていった。直撃でなかったことが幸いした。

  球場での野球観戦は、子どものころ父と行ったときのことも含めて生涯で5度目。「ゆう子がこうなる確率は低いよなあ」と笑い、「オレ、ボールを捕ろうとしたけど逃げてたよ」と言った夫。正体見たり……。

  3日後、頭のてっぺんがボール形にへこんでいることに気づき、聖路加での診察で恥をしのんでそれを報告。レントゲンを撮ることになった。

  「そんなこともあるんだねえ」と先生の表情は冷静だったけれど、実は笑いをこらえるのに苦労していたのかもしれない。結果は「問題なし」。

  「運がいいんだから。何があっても大丈夫な人ね」と看護師さんから絶妙な励ましの言葉。「そうだ、ものはとらえよう。めったに起きないことが起きて私はついてる。がんだって、そのうち……」と変に気をよくして私は、あくる日宝くじを買ってみた。


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