第21回 4月15日

毎年歩き続けたい桜色の小道

  3月30日、東中野の渡辺医院を訪ねた。桜並木の小道の先、閑静な住宅街にある。聖路加国際病院から退院できた2年前から、桜の季節にはいつも、レトロな雰囲気がなつかしいこの医院の門をくぐり、院長先生に「おかげさまでこんなに元気です」と報告することにしている。

  内科の医師である渡辺正院長は、西洋医学の治療を柱にしながらも、独特の健康法に基づいた治療を併用している。たとえば、青汁を中心とした「食事療法」、様々な器具を使った「運動療法」、「温冷浴」(水風呂とお湯のお風呂に交互に入る入浴法)、「湿布」、「裸療法」(服をぬいだり、着たりしながら皮膚呼吸を促進させる療法)などなど。

  この医院と出会ったのは、息が苦しく、体が痛く、自分で食事を作ることもままならなくなった3年前のこと。病院で西洋医療を受けることは拒否していたので、西洋医療とは異なる方法で体をよくする療法を実践している病院を探した。そしてこの医院の存在を知り、入院を希望した。

  結局、渡辺医院の入院日が来る前に、私は息を詰まらせ聖路加の救急外来に行く事態になったわけだが、その後正式に聖路加の外科病棟に入院するまでの3日間、私はここで面倒をみてもらったのだ。

  木造の建物の中はアットホームな雰囲気に包まれ、大正11(1922)年生まれの院長先生はかくしゃくとして若々しくエネルギーにあふれ、看護師さんは皆おっとりと温かい。

  院長先生は「いくら病院が嫌いだからって、ここまで自分勝手をしていちゃダメだよ」と私をしかりながらも、「よし、乳がんが、肺にも首にもみんな転移しちゃったんだな。これは、簡単じゃないけれどやっていこう。3日後には聖路加に行くんだな、よし」と言って入院させてくれた。

  聖路加の救急では、「肺に水がたまっている」としか告げられていなかったので、私の症状から判断した渡辺先生が「肺と首への転移」と言ったことにはドキッとした。でも、院長先生の言い方はとても前向きで独特の温かさがあったので「やっぱりみんな転移しちゃってるのか……」と、すっと受け止められた。

  いつ呼吸困難に陥るか、呼吸が止まってしまうかわからない患者を預かるのは気が重かったと思うが、そこまで症状を悪化させていた私を、嫌な顔をせずよく診てくれたものだと思う。大病院での治療という闘いに向かう前の数日を、この穏やかな時が流れる医院で過ごせたことの意味は私にとって大きかった。もしあの時、「うちではあなたのような状態の患者さんは預かれませんよ」と言われていたら、どんなに心細い思いをしただろう。

  ここは、私にとって数千メートル級の山にアタックする前のベースキャンプになった。ひんぱんに酸素吸収率を測り、胸の状態を触診で丁寧に診てくれた先生。「これで痛みがとれますよ」と湿布をしながら、病状が良くなったがんの患者さんの話などをさりげなくしてくれた看護師さん。私はつぶれる寸前の心を支えてもらった。

  「ちゃんと治療して、症状が楽になってから根本的に体を良くするためにまたいらっしゃいね」と、笑顔の看護師さんに見送られて治療に向かい、なんとか復活できた私。

  ふんわりありがたい気持ちで胸をふくらませ、毎年毎年桜色の小道を歩き続けたいと思うのです。


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