| 第14回 2月26日 |
弱気につけこむセールストーク
| 「正義感が強い」と小学校の通信簿によく書かれた。 アニメを見て「この人、イイモン? ワルイモン?」と尋ね、ワルイモン(悪者)がやっつけられると熱くなった。この恐ろしく単純なところは今も変わらず、「〜すべきだ」と怒ることが多い。その性格ががんを作った原因だと反省し、私はがんのおかげで心穏やか、ゆっくりにっこり、少しは人間的に成長したはずだった。 しかし今月初旬、私は猛烈に怒った。 免疫力を高めるということに関心を持ち、ある商品を試した。商品に詳しいからと現れた中年の男性に、「私にはにおいがきつい」と言ったところ「あなたは薬をやっているから」という言葉が返ってきた。ムッとして「抗がん剤は関係ないですよ」と言ったが、「あなたの本読みましたけど、健康食品も飲んできましたよね。そういうのが体にたまって、においに強く反応するんですよ」と追い打ちをかけられ、私は切れた。別れ際の「そんな風に怒るほど、病気のこと、気にしてるんですね」という彼の一言は胸を刺し、怒ってしまった自分にいら立つ日々を過ごした。 これまで、「がんになったのは私の〇〇がいけなかったのかな」という思いとどれほど闘ってきたことか。今でこそ「がんは色々なものに感受性が強い選ばれた人しかなれない病気!」などと豪語するまで開き直れたが、初めの頃はそうはいかない。病気になった自分に気後れし、その負い目を突くセールストークに乗ったり傷ついたり……。 「飲んでかえって悪くなった? それ、悪いものが外に出ている証拠。あなた、それほど悪いんですよ」「まずい? そう感じるのはあなたの体の毒素のせい。やっぱりあなた、がんだから」 心が弱くなっている時こんな風に言われれば、「そうかあ、やっぱり」と、勧めに乗り続けることだってありえる。私がまさにそうだった。 「がんなんて簡単ですよ」とさらっと言った女性。練った草の粉をリンパ線上に張ると、膿うみが出てがんが治ると言い切った。4カ月と言われて始めて9カ月後、「完治してますよ」と彼女が言った時、私の肺は胸水で埋まり、がんが転移した首の骨が折れていた。この時の怒りは本を書く起爆剤の一つになった。 人は一度その道を歩き始めると引き返すことが怖くなり、それを制する声に耳をふさぐ。仮に当時の私がこの『ゆっくり日記』を読んでも無視するか非難するかのどちらかだったと思う。そんな患者に向かって、がんを「簡単だ」と断言する人も、抗がん剤やがんを大げさな毒素に仕立て上げる人も要注意なのだ。 「抗がん剤は体に悪いだけ。そんなものやってるとダメですね」などと言われることもある私だが、今は「うるさい、黙れ! 私は抗がん剤がなかったら今この世にいないんだ!」と、心の中ではじき飛ばせるくらい強くなった。病気になった負い目を突くトークには「ワルイモン!」とばかりに反応もできる。 がんと言われたばかりの人ほど危ない。ワルイモンの言葉に素直にうなずき、自分を責め、うっかり高いものを買わされようとしている人がいれば、疾風はやてのように飛んでいく月光仮面に私はなりたい。 とはいえ、「ね、怒りっぽいの全然治らないから、『がんとゆっくり反省日記』にしたら?」と言った夫には、「うーむ、確かに」と、珍しく素直にうなずくしかなかったけれど……。 |