第三回 11月 20日

小さな騎士の優しさと握手

9月6日、広島市内のホール、講演後のサイン会。浅黒くぽっちゃりした可愛い手が本を差し出した。見ると、テーブルと同じ高さのところに、丸刈り頭の男の子。

 「坊や、お話聞いてくれたの?」

 思わず顔をほころばせた私に、「うん! おらが母ちゃん、胸のがんじゃ!」と大きな声。

 「そうか…じゃあ僕はお母さんのこと、たくさん助けるんだね」

 「うん、そうじゃ!」

 後ろに立っていた背の高い美しい女性と目が合った。彼女を守る小さな騎士と、私は力いっぱい握手した。

 9月21日、台風。乳がん患者と家族や友人が代々木公園を歩くピンクリボンウオーク2003。2500人以上が参加した。1年前、「来年も元気に参加しよう」と心に期した人たちが、今年も歩く。雨と風なんて関係ない。

 「もう3年もたったんだもん。お母さん、がんばらなくっちゃ!」

 私の耳に男の子の声。ここにも小さな騎士。

 10月22日、四谷第六小学校。「いのち」の教育に熱心に取り組む先生方からPTA向けに講演の依頼。うれしいことに、午前中は児童たちに「朗読コンサート」を聴いてもらえることになった。

 命は命がつなぐもの。両親、その両親、そのまた両親が存在し、一生懸命生きてくれたから私たちの命がここにある。10代たどれば命の数は2千を超える。自分までつなげてくれた命に目を向けよう、祖父母の生き様をもっと知ろう……。

 子どもたちにそんな話をした上で、私の祖母の実話を元にした創作童話「ふうちゃんの秘密の引き出し」を朗読した。誰かを守るため、何かを大切にするため、ふうちゃんは心の奥の7段の引き出しに様々な秘密をしまっていくというお話。

 誰の心にもある秘密の引き出しの中身は、その人の優しさや懐の深さを表すものなのかもしれない。何を言うかより、何を言わないかの方が大切だとこのごろ思う。

 数日後、小学校1年から6年生まで230人余りの子どもたちが書いてくれた感想文集が届く。

 「女の子に渡してもらった折り紙、それ僕が折ったんですよ。ちょっとはずかしかったから頼んで渡してもらったんですけれど。その折り紙のつるで四谷第六小学校を思い出していっぱいお話書いてください」

 「絵門さん、がんとなかよしになろうとするなんてナイスアイデアですね。僕は秘密の引き出しの1段目(友達のプライドを守るために胸にしまった話)が好きでした」

 ここにも小さな騎士。自分の子どもにはまだめぐり合えていない私も、こんなすてきな小さな騎士たちに出会えた。うれし涙でちょっとぬれてしまった文集は私の宝物。

 小さな騎士が、精いっぱいの言葉で、小さな体を張って守ってくれる。そんな時、私たちの体内のがん細胞はきっと、「これはかなわない」と身を縮めるに違いない。


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