| がんと共生する道(明日はどっちだ!コメンタリー:184/アエラ 2003年06月02日号) 生きられるところまで生きる、と開き直ろう。 ストレスのない心の持ち方を自分で編み出そう。 テレビドラマにがん患者が登場すると、必ず死にゆく運命を辿ります。「あと○カ月ですね」という医師の台詞もつきもので、余命まで宣告されたがん患者は、生と死をテーマにした脚本にとっては要の人物となるようです。しかし、私自身がん患者になってみて、患者をめぐる状況は大きく変わっており、こういう設定にはもう無理があると感じています。 10年前に母をがんで亡くした私は、がんという病気になると、たとえ最高とされる医療を受けても辛い思いをするばかりで、決して助からないのだと思い込むようになりました。だから、2年半前に、乳がんを告知された私は、医療を拒否しました。そして、ビワ温灸、生姜湿布などの自然療法、整体や気功などの民間療法、玄米菜食などの食事療法、プロポリス、アガリクス、ビタミンミネラルやハーブなどの補助食品を飲むなど、あらゆることを試し、自分でがんを治そうとしました。 もちろん、これらがすべて悪かったということではないと思います。しかし、1年2カ月でがんが肝臓、肺、骨などに転移。首の骨は弱くなって3本が折れ、胸水は6リットルも抜くほどたまり、ひたすら苦しくて痛くて瀕死のところを、ホスピスを希望して入院した現在通う病院に助けられました。 告知から、こうして復活するまでについては近著に詳しく綴りましたが、とにかく今私は生きています。しかも、元気です。週に1回、抗がん剤の点滴を受けに通院するほかは健康な人と変わりなく生活し、髪が抜けた以外の副作用はほとんどなく過ごしています。 「全身にがんが転移して手術もできず死の一歩手前にまでなっても、こうして回復でき、抗がん剤を使っても普通の暮らしを維持できるなんてこともあるんだ」という驚きが、今の偽らざる心境です。 「がんだということを忘れている時間をどれだけ持てるかが、がんを克服する上で大切です」。主治医にこう言われました。確かに、がんになった自分を客観的に冷静に把握したうえ、がんのことを忘れられるほど夢中になれることを持っている人たちに、がんと上手く共生し、意欲的に幸せに生きている例がたくさんあります。 船舶技師の資格を取った。ビーズやミニチュア細工を人に教えるようになった。ハワイアンを習い始めた。これらはすべて私の知人が、がんになった後に始めたことです。中には10年以上前に余命半年と宣告された人もいます。皆辛い治療の時期を経験しましたが、今は笑顔イキイキです。 がんの場合、完全治癒を望む必要はなく、生活を脅かすような進行がなければそれで十分なのです。がんと闘うのでなく、「がんと一緒に生きられるところまで生きればそれでいい」と開き直り、先のことを考え悩むより今を大切に楽しく生きようとすることが、がんで死なないコツだと思います。 私は、1冊の本を書き上げるという目標にひたすら向かってきたこと、がん告知後に勉強を始めた産業カウンセラーの資格を得て、がん患者の心のケアにあたるという目標に一歩踏み出せたこと、また、童話などを読む「朗読会」を開くという新たな活動を始めたことなどが、がんを思い患うストレスから解放し免疫力を大きく高めたと感じています。 「がん」が自分や家族の身に降りかかった時、まるで最初に見たものを親鳥だと刷り込まれた雛のように、ひとつの情報や方法に走りがちです。誰かに奇跡をもたらした方法にしがみついたり、たった一人の医師や民間療法の「先生」の言いなりになったりしてしまいます。ところが、一人ひとり遺伝子が異なるように、がんも百人百様で有効な治療法は千差万別です。 私のがんは、ホルモン感受性プラス3というホルモンの薬が効く比較的「人相」が穏やかなタイプでしたが、そのことは告知を受けた病院では知らされもせず、現在通う病院で初めて教えられました。医療の質の格差を踏まえ、病院を選ぶ。必要最低限の検査を受けてがんの特質をとらえる。それに合った治療法を選択する。これを一歩目として、がんとつき合い始めるのが得策です。 かつての私のように西洋医学を拒否している人には「逃げないで」と、反対に医者任せにしている人には「自分で作った細胞なんだから、自分で治そうとする努力もして」と申し上げたい。そして、セカンドオピニオンなどを経たうえで、信頼でき率直に話ができる主治医を持つこと。代替医療や自然療法、自分に合った補助食品を採り入れたり、食事や生活習慣を改善したりするなど、自分でできるサポートは冷静に情報を集め、選択してやってみることも大切です。 何よりも肝心なのは、心の持ち方をストレスのないものにすることです。ただ、何が自分に適したサポートか、ストレスがない状態がどういうものであるかについても人それぞれです。ほかの人のやり方を試しはしても追随する必要はないと思います。誰かに教えられた通りにするのではなく、自分のがんの声に耳を傾けたオリジナルな共生策が必要です。 私は思い切り現在進行形のがん患者です。でも、生きられることだけで嬉しいと、毎日を楽しく過ごせているのは、こういうふうに気楽に考えられるようになったからだと思っています。 ホームへ |